建て主さんの希望で、伝統的なスタイルの8畳客間を設計することになった。

他の部屋との兼ね合いやコストなどの制約の中、広縁沿いは雪見障子で桟を細かくしたり、襖紙は建て主さんと一緒に専門店で選んだり、結構雰囲気の良い和室になるな、と出来上がりを楽しみにしていた。

 

現場に入って、ここの和室はこのようになります、と図面を見せた。「真壁の和室があるんだね」大工さんの目つきがかわる。

大「天井は棹縁か。竿はえてめんにする?長押はつけるの?床柱は何?こうじぶちはつけるの?」。

大「ここは、○寸にしようか。いや○寸○分がいいんじゃないか」。

 

ある程度の知識はあるつもりでいたのに、大工さんの会話についていけない。

なにしろ、尺・寸のままではぴんとこないのだ。英単語を聞いて和訳してから納得するのと同じように、頭の中でミリ単位に訳さないと体感できない。その上、聞いたことがないような専門用語や略語がぽんぽん飛び出す。

 

私「ちょっと待って下さい。それって○ミリということになりますか?○○ミリにしようと思っていたのですが、おかしいですか?えてめんって、何ですか?こうじぶちって、どこのことですか?それって?それって?」。

 

大「マチコチャン、覚えておきな。えてめんっていうのは、げっそりした猿の頬のこと、角材の先端を両側からななめに削ぎ落とすことを言うんだよ」。

「こうじぶちは甲地縁という字、欄間障子の敷居に合わせて、長押の上につけるもののことだよ」。

 

他の部分は、「この納まりでお願いします」と図面を渡すと、「うん、わか った」で会話が終わるのに、真壁の和室はそうはいかない。和室細部の納まりと寸法は大工の器量の見せ所。最近減ってきていることもあり、気合いの入り方が違うのだ。

 

 

大「今度全部和風の家を設計してよ」。

私「建て主さんの希望があればね」。

そう答えつつ、家全体を真壁の和室にしたら盛り上がりすぎてまとまらないんじゃないかな、という思いがよぎる。楽しいんだけれどもね。

 

 

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