設計士のお仕事では、いろいろ細かい計算をされるんでしょう、と言われることがある。

確かに、地震や台風で倒れないように構造計算をする必要があるのだが、構造計算は構造専門の設計事務所に任せる場合が多いのだ。通常私が計算するのは、面積の足し算とかけ算位である。

 

化学系技術者の家を設計していたときのこと

建「なるべく広い家にしたいんだけど」。

私「面積はこれ以上増やせませんが、一部に吹き抜けをつくると広がりがでますよ」。

建「冷暖房がきかなくなるから、居室は吹き抜けにしたくないな」。

私「そうですね。階段室を吹き抜けにして、階段室と居室を硝子で仕切られてはいかがでしょう。階段室と一体に感じられるので、広々としますよ」。

建「階段室は金属壁だから、硝子ごしに輻射熱の影響があるんじゃないの?」。

私「フクシャネツ?」。

建「輻射熱だよ。君、設計士なのに知らないの?」。

聞いたことはあるのだけれど、朧気にしか思い出せず、手の平に汗がにじむ。

 

私「あの、ええと、輻射熱ですね。屋内同士の輻射熱の影響は、ごくわずかだと思いますが」。

建「どれくらい大丈夫なのか、数値を見て判断したいんだけど」。

私「素材のデータも揃っていませんし、通常住宅の設計では、輻射熱の計算までは行わないのですが」。

建「計算方法が載っている本を貸してあげるから、来週までに計算してきてね」。

 

言われるままに本を借りてきたものの、読んでもさっぱり分からない。やさしい解説書がないか本屋で探してみたが、どの本を見ればよいのか分からない。いろいろ試してみた末に、借りてきた本に載っていた計算式に、なんとか数値をあてはめて計算することにした。

 

私「いかがでしょうか」。

建「この計算方法ではだめだよ。この式にこの数値を入れて、この式に代入して、こう計算するんだ。輻射熱の影響はほとんど無いようだね。これなら吹き抜けにしても安心だね。この計算式、プリントアウトしてあげるから、覚えておきなさい」。

 

私の1週間の苦悩は、一瞬にして解決してしまった。設計士の知識は、広く浅くということが多い。建て主さんの専門分野には舌を巻くしかないのである。

 

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